1300人の人生ドラマにかかわる
~ JOBOTA 誕生から1年半 ~
大田区 生活再建・就労サポートセンターJOBOTA(ジョボタ)が誕生してから9月末で1年半が経ちました。この間、1382件(初年度777件、今年度上半期605件)の、相談が寄せられました。
その一人ひとりに人生のドラマがありました。課題解決のために一緒に考え、行動するなかで、「長く働けなかったが、天職と思える仕事に出合えた」「住み慣れた家を手放さずにすんだ」「年金の遡及申請で思わぬ人生のボーナスが入り、20年ぶりに故郷に帰ることができた」……。みなさんの笑顔に接するたびに私たち職員もうれしくなってしまいます。
JOBOTAは、生活に困っている人々が、「幸せな生活」を送ることができるよう、今後とも、行政や専門機関、民間団体と連携・協力して、力を尽くしていきます。
・<生活・仕事相談>―――271人が就職
JOBOTAは、さまざまな生活相談を受けるとともに、無料職業紹介所としてハローワークと連携し、お仕事相談をすすめてきました。また失業し、家賃が払えないという家庭にたいし、住居確保給付金制度(家賃補助)を案内し、家賃の心配をせずに就職活動に励んでいただけるよう、支援してきました。これらの支援によって1年半で271人の利用者が就職できました。
(初年度159人、今年度上半期112人)
人生のボーナスで20年ぶりに帰郷――70歳代Aさん
Aさんは、この夏20年ぶりに帰郷することができました。Aさんは、5人兄弟の末っ子。早くに両親を亡くし姉兄が親代わりになって育ててくれました。高校卒業後、自動車関係の会社に就職。32年にわたって働き続けました。退職後も、ドライバーやビル警備員として70歳まで働いてきました。
体を壊し失職してからは、生活費、家賃の支払いにも事欠くようになりました。見かねて近県に住む姪御さんが援助してくれていましたが、限度があります。姪御さんが地域包括支援センター(さわやかサポート)に相談。これを契機にJOBOTAの相談員も支援にかかわるようになりました。
Aさんは、明るい性格ですが、事務手続きは苦手。放置していた厚生年金の手続きは終わっていましたが、企業年金にも加入していたことがわかりました。相談員は、事務所の所在地を探しあて、申請手続きに同行します。
このほど、年金支給が開始されました。同時に厚生年金、企業年金の遡及分が支給されました。驚くほど高額でした。働き者のAさんが得た人生のボーナスでした。姪御さんに借りたお金を返済。「一度は帰りたいと思っていた」古里に姪御さんを伴って帰ることができました。
「いやー、姉や兄から怒られました」。Aさんは、姉の写真を持参し、相談員に嬉しそうに土産話をしてくれました。
「働く前の不安 うそのよう」――20代Bさん
20代のBさんは、福祉専門職をめざしていました。初めての就職活動です。「人前で発表するさい声がふるえる」ことがあり、就職できるだろうかと不安を抱えていました。病院にも通っていました。主治医から「理解のある事業所を選べばいいのでは」と助言を受けていました。この助言に「自分の状態を伝えたなら、採用してくれるところはないのでは」と不安を募らせていました。
就労支援員は、自己紹介書づくりから支援を始めました。Bさんが自分の長所を認識し、アピールできるようになるためです。同時に、周りに馴染みにくいというBさんの性格、通勤に便利なところ、との希望を汲み、3つの小規模事業所の職場見学を提案します。
Bさんはこの中の一つを希望。就労支援員が見学に同行しました。施設長の職務内容の説明、職員の働く姿勢に共感し、「ぜひ面接をうけたい」と意欲を示しました。面接の結果、晴れて採用となりました。就職して半年がたちます。
就労支援員が職場にBさんを訪ねると、働く前の不安はなく、「仕事が楽しい」と満面の笑みでこたえてくれました。
ライン副責任者に抜擢――40代Cさん
このほどCさんがJOBOTAを訪ねてきました。「ラインの副責任者に抜擢されました。給料もあがります」と話す表情は、すっかり落ち着いていました。
Cさんは、町工場に長く勤めていましたが、閉鎖により失職。以来、長い間就職できずにいました。最初にJOBOTAを訪れた時には、「ここ一週間、口にしたのは水のみ」という苦境にありました。
「いくつも応募したが、採用されない。とにかく働きたい」といいます。とはいえ、まずは食料です。社協に食料支援をお願いしました。
Cさんは、働き先について、「自転車通勤できるリサイクル関連。それ以外は自信がない」といいます。就労支援員は、ハローワークでCさんの希望にそう求人を検索。Cさんは、ハローワークの紹介をうけ、面接に臨みます。就労支援員は、履歴書づくり、模擬面接などを実施、「こんなに準備して面接をうけるのは初めて」という甲斐あって、Cさんは面接一社目で採用されました。
ところが、この夏の暑さ。Cさんは、就労2日目にして体調を崩しました。「持病の再発かも」。心配しながらも、受診費用がありません。無料・低額診療による受診を案内、熱中症とわかり、「安心しました」(Cさん)。体調を取り戻したCさんは、仕事を継続、その働きぶりが認められ、ラインの副責任者に登用されたのでした。
食料、仕事、病気…。地域資源の活用によって、Cさんは安定した生活を取り戻しました。
・<JOBOTAプロジェクト(就労準備支援)>
―自分の力発見 相次ぎ就労―
JOBOTAプロジェクト(就労準備支援)には、「働きたいが働く自信がない」「昼夜逆転の生活をただしたい」などという若者が、毎月15人ほど参加しています。パソコン教室、ハコづくり、グループワーク「さわやか自己表現」などのプログラムを通じて、「自分の力を発見し、育む」ことを目的にしています。
(※「ハコづくり」は、現在開催しておりません。)
長いブランクを乗り越えて若者たちが就職、職業訓練、就労支援移行事業など相次いで自分の道を見つけ、歩き始めています。
「初めて就労できた」――30代Dさん
Dさんは、技能職をめざし、上京しますが、希望職には就けず、長いあいだ、親の仕送りに頼る生活をしていました。母親が心配し、Dさんを伴い、JOBOTAに来所しました。伏し目がちで、どこか自信なさそうでした。「30代半ばまでに仕事につき、技能職と両立したい」とDさんは話しました。相談の結果、Dさんは、JOBOTAプロジェクトの利用を希望しました。
パソコン教室、ハコづくり、グループワーク「さわやか自己表現」、職場体験など、多いときは週5日、JOBOTAに通い続けました。
(※「ハコづくり」は、現在開催しておりません。)
遅刻や欠席はなく、ハコづくりでは誰よりも速く正確に折ることができるようになりました。Dさんのなかで達成感、自己肯定感が育っていくのが、周りから見てもわかりました。笑顔が見られるようになりました。
「就労に向けた準備」ができました。就労支援員は、正確でていねいな作業をするDさんの特性を生かす職場を選び、一緒に見学しました。Dさんは積極的に質問、面接を希望します。面接で工場長が「みんなゆっくり仕事を覚えたからね」と激励。採用されました。
Dさんにとって初めての就職です。緊張感が高まっているのを見て取った相談員は、出社初日、Dさんを門前まで見送りました。Dさんは、いまも元気で働いています。
・<家計相談支援>――人生の転機に
JOBOTAは本年度から、家計相談支援を始めています。家計相談によって窮地を脱することができたとの声が寄せられています。
「住み慣れた家を手放さずにすんだ」――80代Eさん
Eさんは、自宅を手放さざるを得ない窮地に立たされましたが、このほど住宅ローンの借り換えができ、30年間住み慣れた家で、安心して生活できるようになりました。
Eさんは、ローンを組み自宅を購入しました。支払いはあと僅かですが、蓄えがつき、唯一の収入である年金の大半をローン支払いにあてていました。「働いて生活の糧を得たい」と相談に訪れたのでした。パートの仕事が決まり、なんとか凌げるのではと思っていた矢先に入院。ローンの支払いが滞るようになりました。
不動産を活用したローン返済などを検討しましたが、金融機関は応じません。「自宅を任意売却し、ローンを返済。残った資金を蓄え、アパートに転宅する」(弁護士の助言)しか道はないように思われました。
しかし、Eさんは住み慣れた家を手放したくはありませんでした。
Eさんの希望にそう打開策はないか――。思案しつづけていた相談員の目に電車の中吊り広告が飛び込んできました。内容は、Eさんの年齢でも借入可能な不動産担保ローンでした。さっそく問いあわせて要件、条件を確認しました。返済期間は延び、利息も増えますが、月々の返済額は大幅に減ることがわかりました。
Eさんは納得して借り換えの手続きを進めました。このほど煩雑な手続きのすべてが終わりました。「日々の生活で悩むことがなくなりました。気分が滅入り、見えなかった周りの景色が目に入るようになりました」とEさんは話しています。
(紹介した内容は、複数事例を組み合わせるなど個人情報保護のために編集しています)